私たちのお店でピアノを弾き比べた方のほとんどが、まずその音色の違いに驚かれます。国産から輸入品まで、様々なメーカーの商品が並ぶ店内では、同じメーカーのものだけを並べたお店と比べると、
音やタッチの良し悪しよりもまず、1台1台違うという事が強烈に印象付けられるようです。
それでは、なぜそんなに違うのでしょうか。というよりも、どのようにしてピアノの音色は決められるのでしょうか。
世界は多様な民族、またはそれによって育まれてきた文化圏によって彩られており、それぞれが永い歴史によって培われてきた文化や価値観によって特徴付けられます。一番分かりやすいのが、食べ物です。別々の民族が互いに影響されながらも、
長い歴史の中で培って、引き継いできた食べ物は、それぞれに代えがたい味わいがあります。 したがって、それらに甲乙をつけることはできず、それぞれが真実そのものなのです。フランス料理も中国料理も美味しいし、イタリア料理もロシア料理も美味しいのです。もちろん日本料理が美味いのはご存知の通りです。
音や音楽に対する感覚もまた同じで、それぞれの民族の美意識は、互いに影響されながらも独特のものが形成され引き継がれてゆきます。
ピアニストがピアノを選ぶ場合、自分の音楽性にあった、もっと砕いて言えば自分が表現したいものを確実に表現してくれるピアノを選ぶのです。 その選択の根幹にあるのは、やはりそのピアニストの美意識です。
その美意識は、根底において自分を育て培ってきた民族や文化圏に深く根ざしており、他からの文化的影響を受けながらその人独特のものとなってゆくのです。
その美意識が演奏を聞く聴衆の持つ美意識と共鳴しあう時、最大の賛辞が送られるのだと思います。 そこには、大地にしっかりと根をおろした大樹のような文化的な真実があり、またその真実が、違う文化圏の聴衆をも感動させ、魅了するのではないでしょうか。
ピアノメーカーは、どんな世界的名器であろうと、自らを育んできた文化的なエリアを一番主要なマーケットと考えているはずです。 したがって、そこの聴衆、ピアノ愛好家しいては個々のピアニストや作曲家の美意識にかなうピアノづくり、音づくりに励むのです。
STEINWAYのピアノが、ニューヨークとハンブルグで音が違うのはそのためではないでしょうか。 同じヨーロッパでも、フランスのピアノとドイツのピアノも明らかに違います。
ドイツのピアノでもメーカーやその製作された時代によってかなり違います。
結論を言えば、美しさとか、真実は一つではなく、その文化圏やまた時代によって変化し、多様なものだということです。 この世に、ピアノメーカーが一つしかなく、世界中のピアノが全部同じ音がしていたのでは、多様な美を奏でることはできず、音楽は成り立ちません。
確かめてください。1台1台違うことを。見つけ出して下さい、
あなたと一番響き合えるピアノを。
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