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ピアノ千一夜 「ベーゼンドルファー−至福のピアニッシモを求めてーprivacy policy

音楽の都ウィーンに育まれたピアノ

 ウィーン、それは音楽の町。もともとハプスブルグ家のお膝元であったウィーンには、その庇護もあり多数の音楽家がヨーロ ッパ各地から集まり、活躍しました。ハイドン、モーツァルト、シューベルト、ベートーベン、ブラームスと枚挙に暇がありません。もちろん、バイエルン人、シュトラウス一家の活躍も忘れることはできません。
 イグナス ・ ベーゼンドルファーがウィーンにベーゼンドルファーの工房を立ち上げた当時、すでに「神聖ローマ帝国」は崩壊し、ウィーンもまた新しい時代を迎えようと していました。そのような政治的混乱期にその不安を紛らすように、ウィーン市民は、ワルツを踊ったと言われています。時代によりその形式には大きな変化がありますが、ウィーン市民の音楽好きは、その裾野を広げながら引き継がれたのです。
 イグナス ・ ベーゼンドルファーが、最初のピアノを作ったのは、こうした時代でした。 多くの音楽家達との交流の中で様々なアイディアを生み出し、彼らの新しい楽器であるピアノに対する要求に積極的に応えて行きます。そして、ベーゼンドルファー社創業間もない1830年には、オーストリア王室から「宮廷及び会議所御用達のピアノ製造業者」に指名されます。
その後、ベーゼンドルファーは、最高級のピアノとして、オーストリアに限らず、世界各国の王室や貴族や音楽家にそのファン層を広げていったのです。

至福のピアニッシモを求めて

 ピアノの発達の歴史は、その音量のレベルアップと堅牢さの追求であったと言えるでしょう。とりわけ音楽の大衆化は、1000人、2000人を収容する大ホール建設を促し、そこで演奏されるピアノコンチェルトは、百人以上の大オーケストラをバックに演奏されるようになりました。ピアノメーカーは競って大音量が出るような工夫を施しました。
 ベーゼンドルファーも当然、大きな音が出るように様々な工夫がされています。しかしベーゼンドルファーは、そのような時流に流されることなく、ピアニッシモにこそ音楽的な美の原点があると考え、聞く人と心にしみ入る『至福のピアニッシモ』を追求してきたとされています。確かに、ピアニッシモに意を尽くせば、フォルテを際立たせ、音楽に劇的な感動を与えることができます。当たり前のこの考え方を、大事に守り通してきた稀有なピアノがベーゼンドルファーです。
 名器ベーゼンドルファーには、限りない賛辞が寄せられていますが、ここにこそ、このピアノ”ベーゼンドルファー”のゆるぎない存在意義があるのではないでしょうか。

ベーゼンドルファー社がヤマハの傘下に!

 2008年12月20日、ヤマハがオーストリアの銀行BAWAG社からベーゼンドルファー社の全株式を取得することになったことが発表されました。当然、「ベーゼンドルファーはどうなっちゃうの?」という心配の声は大きかったようです。
 実は、同社は以前にも同様の道を経てきました。1826年に創業した同社ですが、20世紀の2度にわたる対戦を経てたいへんな経営危機を迎える時期があり、1966年にアメリカのピアノメーカー大手のキンボール社の傘下に入りました。その後、2002年にオーストリアの銀行BAWAG社が買い戻したばかりでした。念願のウィーンの会社に戻ったわけです。ところが今度はその親会社の銀行がアメリカの投資ファンドの買収に合い、今回その意向でヤマハに譲渡されることになったのです。世界最古の名門も経済という荒波の上ではまさに舵とりもままなら無い小船のような運命をたどってきたわけです。
 しかし、こういった会社の売却という事態は同社に限ったことではなく、ザウター社など一部を除きほとんどの会社が経てきた道でもあります。1971年名門スタインウェイ社が投資ファンドに売却され、今は管楽器メーカーのセルマー社の傘下に入っています。ベヒシュタインにおいてもまた同じような歴史をたどっています。
 楽器としてのコンセプトも、メーカーとしての規模も全く対極にあるベーゼンドルファー社が、ヤマハの傘下で今後どのように変わってゆくのか注目されています。
 願わくは、「ビロードのような…」と憧れを集めるウィンナートーンを損なうようなことの無いようにと、願うのみです。



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 スタインウェイ&サンズ A-188(2008~2009年製)
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 ブリュートナー モデル6 (1905年製)
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  ベヒシュタイン EN-280(1984年製)
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